地域と大学で、ともに歴史を掘り起こそう。
東乗鞍古墳における天理市教育委員会との共同発掘調査

2019.03.18

天理市と桜井市を南北に結ぶ、JR万葉まほろば線(桜井線)。
のどかな田園風景が続く車窓の向こうには、日本でも有数の古墳群が存在するのをご存知でしょうか。その数は天理市内だけでも1500基以上と言われています。

貴重な文化財であり一般には遠い存在である古墳も、天理大学にとっては実は身近な存在。
キャンパス内に西山古墳があることも驚きですが、親里ホッケー場の正面に位置する前方後円墳「東乗鞍古墳」も、文学部考古学・民俗学専攻を中心に本学と深い関わりのある学びのフィールドとなっています。

 

2019年2月11日より23日まで、文学部考古学・民俗学専攻(2019年4月から研究コースに変更)は天理市教育委員会と共同で、天理大学杣之内キャンパスの南方約1.5kmに所在する東乗鞍古墳の発掘調査を行いました。本調査の実施は、昨年に続き今回で2回目。考古学・民俗学専攻の桑原久男教授、小田木治太郎教授、橋本英将准教授の指導を中心に、考古学・民俗学専攻の学生たちなど21名が実習として調査に参加しました。

竹林に囲われた急斜面で、学生たちがシャベルや手グワなどを使いながら、注意深く地面を掘り起こしていきます。
橋本英将准教授によると、今回の調査は、古墳の規模と墳丘の構造を明らかにし、それがどのような作り方で作られたのかを把握することと、昨年かけらが発見された埴輪の存在を調べることを目的としているそうです。

「分かりやすく説明すると、調査目的は3つあります。
一つ目は、古墳がどのくらいの大きさであるのか把握すること。
二つ目は、この古墳がどのように作られたのかを調べること。
そして三つ目に、埴輪の有無について調査すること。
いずれも、昨年の調査では十分に把握しきれなかったところについて、詳細をより明らかにするために調査しています。

例えば、埴輪については、この東乗鞍古墳は、ずっと埴輪を持たないと考えられてきました。
そのような背景のなか、初めて墳丘に調査のメスが入った昨年の調査で、埴輪の破片が初めて見つかりました。やはりこの古墳にも埴輪があったのではないか、という認識に変わりつつあるので、それをより明確にすることを目的とし調査しています」

 

実はこのような貴重な調査が実現した背景には、天理市との包括的連携協定を締結したということがあります。

天理大学文学部は、天理市と天理大学が2014年に締結した「天理市と天理大学の包括的連携に関する協定書」のもとに、2017年5月1日に天理市教育委員会と「天理市内埋蔵文化財の調査・研究に関する覚書」を締結。この覚書により、天理市内における古墳等の共同発掘調査が可能となりました。
天理市教育委員会からの協力について、橋本准教授はこう語ります。

「調査に必要となる様々な許可の申請や、地元の方々への周知などについて、天理市教育委員会よりいつも多大な協力やアドバイスをいただいています。発掘調査・埋蔵文化財に特化した覚書を交わしたことで、文化財担当者の方も正式な業務として指導にしに来てくださるようになりました。
奈良県内では、こうした調査は大学の単独ではなく、自治体・教育委員会との相互協力のもとで行うという方針があります。そうした背景からも、天理市教育委員会や地元の方々の協力は非常にありがたいものです」

今回の発掘調査では、前方部の墳丘西側斜面全体の構造が明らかになり、昨年に引き続き、円筒埴輪片が出土するなどの成果がありました。
文化遺産の保存という観点から非常に貴重な共同調査ですが、参加する学生たちにも大きな刺激を与えています。

 

「大学のすぐそばに古墳があり、実習で発掘調査に参加できるのはとても素晴らしい体験だと感じています」

実習の参加者である山村綾さん(文学部歴史文化学科考古学・民俗学専攻2年生)も、そんな学生のひとり。
高校生の頃に考古学に魅せられ、天理大学に入学。熱心に考古学の学びに没頭しながら、天理市文化財課で土器の実測図を描くアルバイトを続ける彼女は、考古学実習の魅力をそんな風に語っていました。

 

また、橋本准教授も学生にとっての実習の意義を、こう語ります。

「古墳の発掘調査というのは、調査に必要な様々な技術を覚えるのに適したフィールドです。教材としても、非常に良い学びの場になっていると思っています。古墳が多いとされる奈良県ですが、天理大学のように実習ができるフィールドが歩いてでも行けるような距離にあることは珍しく、貴重な環境だと思います」

 

地域と大学との連携は、学生たちにとって奥行きのある学びと経験を提供すると同時に、貴重な文化遺産の様相を明らかにするなど、社会全体にとっても意義のある成果を生み出すための基盤となっています。
天理大学では、そうした土壌づくりが豊かな社会づくりへの貢献につながると信じ、これからも地域社会・行政との連携を深めていきます。