天理大学ラグビー部
-写真で振り返る栄光への軌跡-

2021.04.13

ラグビー

2021年1月11日、東京・国立競技場で行われたラグビーの大学日本一を決める第57回全国大学選手権決勝で、天理大が連覇を狙った早稲田大に55-28で勝ち、3度目の挑戦で初優勝を飾った。

新型コロナウイルスの集団感染を乗り越え、史上10校目となる栄冠に輝いた。

創部96年目にして初の栄冠を勝ち取った天理大ラグビー部の軌跡を写真で振り返る。

撮影・制作協力:天理大学ラグビー部・天理教道友社・吉田孝光

集団感染を乗り越えて、練習再開

8月12日、一部の部員が新型コロナウイルス陽性と診断され、最終的には部員62名に及ぶ集団感染となった。

活動が再開したのは9月10日、約1ヶ月を要した。再開時、グラウンドには慈雨の如き雨が選手たちに降りそそいだ。

関西大学ラグビー5連覇

11月7日、関西大学リーグ開幕。1ヶ月間の練習中断は、パスミスや防御の乱れなど多くの課題をチームに残したが、最終節の同志社大では、先発メンバーのうち4年生が9人出場。攻守に活躍する奮闘を見せ関西5連覇を成し遂げた。

準々決勝:流通経大

計12トライ78得点で圧勝した準々決勝。何度もサイドを突破したWTB土橋源之助は、この2トライの活躍。大学屈指の高い攻撃力が注目を集める中、堅守も光った。

 

1年時から先発メンバーに名前を連ねてきたSO松永拓朗を軸に高速アタックで終始、流通経大を圧倒。正確無比なキックを操る司令塔は、この日コンバージョンキックを7つ成功させ、チームに安定感をもたらした。

準決勝:明治大

準決勝の相手は、2大会前の決勝で敗れた明治大。チームを牽引したのは、2年前自らのノックオンで涙をのんだCTBフィフィタ。徹底したマークにあいながらも、オフロードパスや飛ばしパスで周囲を活かした。

 

一昨年の覇者である明治大のアタックを封じたのは、フロントローの谷口 祐一郎・佐藤 康・小鍜冶 悠太をはじめとするFW陣。“紫紺の重戦車”を相手に何度も好タックルを繰り出しし攻撃の芽をつんだ。

3度目の挑戦 悲願の初優勝へ向けて

決勝戦。国立競技場で対戦するのは、創部103年目、優勝回数16回を誇る昨年度の覇者早稲田大。創部96年目の天理大は、3度目の頂上決戦で初優勝を狙う。悲願の初優勝へ向けて万全を期すため、チームは2日前に東京入り。都内某所で最終調整を行い、前日の10日夜には、伝統となっている“ジャージー渡し”を行った。新型コロナウイルスの集団感染の際、大学関係者はもとより、天理市民をはじめ、多くのラグビーファンからの支援と応援によって決勝戦まで辿り着くことが出来たチームは、漆黒のジャージーを手に“日本一で恩返し”を誓った。

決勝:早稲田大

常に声を張り上げチームを鼓舞したFL主将松岡大和。グラウンドの内外でチームを牽引し続けた。

 

決勝戦で2トライを奪ったLOアシペリ・モアラ。ブレイクダウン時には常に体を張りターンオーバーを生み出した。

 

4年生LO中鹿駿をはじめ、FW陣がひたむきに体を当て続け、ディフェンスで主導権を握ったのも勝因の一つだった。

 

CTBシオサイア・フィフィタは、弾丸のような突破力を発揮しつつ、トライにつながるパスを放ってチームを活かした。

 

漆黒のジャージーは、接戦の予想を覆す躍動をみせた。

常に前に出るディフェンスからつなぐ多彩な攻撃は、チームスローガン“一手一つ”を体現していた。

 

SH藤原忍が繰り出すテンポの速いパス回しは、攻撃のリズムにアクセントを生み、相手を翻弄した。

 

この日、CTB市川敬太が上げた4トライは決勝史上個人最多となったが、本人は「全員で取ったトライです」と謙虚。

 

インゴールで転々としたボールを抑えたSH藤原忍。後半開始早々の得点で36-7。トライ直前、早稲田大を押し込んだ“槍のスクラム”が試合を決定づけた。

 

新型コロナウイルスの感染対策を期して開催された決勝戦。集まった観客1万人余は声を出さず、心で声援を送り続けた。

 

「ありがとうございまーす!めちゃくちゃ嬉しいです」と絶叫し、涙を流した主将松岡。壁を乗り越えてた者が語れる言葉に多くの人が心を打たれた。

 

選手を受け止める小松節夫監督。1995年のコーチ就任から28年目にして初の戴冠となった。

 

スタンドで応援する部員たちは、用意してきたチャンピオンTシャツを着てともに喜びを分かち合った。

 

1世紀に渡る天理ラグビーの歴史の中で、チームを初の日本一へ導いた名将の功績は計り知れない。

 

チームスローガン「一手一つ」。選手・主務・マネージャー・学生コーチ・スタッフ。一人ひとりがそれぞれの役割を果たし、ともに力を合わせて日本一に向かって進むことを意味する。

おかえりなさい 日本一

決勝が行われた当日の夜。天理駅には日本一を勝ち取ったチームを讃えようと多くの市民やファンが駆けつけた。

天理ラグビー1世紀の歴史

96年の歴史を持つ天理大学ラグビー部。象徴となる漆黒のジャージーには、胸に輝く「天理」の2文字があしらわれている。そのスタイルは創部以来変わることなく、選手たちの誇りと日本一を目指す精神によって受け継がれてきた。

天理大学の前身、天理外国語学校が1925年(大正14年)4月に開校。同年6月にはラグビー部が創部された。
その際、天理大学の創設者である中山正善二代真柱様は、同部には純黒の、旧制天理中学校(現・天理高校)には純白のジャージーを寄贈された。

純白のジャージーを得た天理高校ラグビー部(旧制天理中学校)は、全国高校ラグビー大会優勝6回、準優勝7回、全国高校選抜大会優勝1回と全国にその名を轟かせる活躍を果たす。

一方、天理大学ラグビー部は一時期、低迷期を迎えるも関西大学ラグビーリーグの1部にあたるAリーグで2020年度の5連覇を含めると12回優勝。全国大会でも着実に成績を伸ばし、2011年、2018年と決勝に進出するも戴冠まであと一歩及ばず、いずれも準優勝となった。

2020年度の新チームは、天理大史上最強との呼び声も高く、初の全国制覇に期待感が高まっていた。新型コロナウイルスの影響で全国的に最初の緊急事態宣言が出され、春のシーズンはなくなった。天理大は6月11日に練習を再開すると徐々に強度を上げ、順調に長野・菅平での夏合宿を迎えようとしていた直前、集団感染が発生。

その時を振り返り、主将松岡は何度もメディアの取材にこう答えた。「つらい日々も、応援してくださった方々のおかげで頑張れた。感謝だけでは足りない。〝日本一〟という結果で恩返ししたい」。
チーム一丸となって短期間でプレーの精度を上げたチームは、三度目となる決勝の舞台に駒を進めた。

決勝の舞台・国立競技場では臆することなく、FW・BKが一体となる守備と攻撃、まさに「一手一つ」のプレーを繰り広げ、前大会王者相手に大会史上最多得点となる8トライ55得点で完勝。創部96年目にして、大学ラグビーの頂きに辿りつく金字塔を打ち立てた。

天理大学ラグビー部を日本一に導いた小松監督は、「96年の歴史を持つ立派なクラブ。伝統のある天理大学として、これからもみんなでいいチームを作っていきたい」。そう静かに答えた。優勝というひとつの栄冠を手にした名将は、既に次なる挑戦を見据えていた。