寛容な気持ちが、異文化をつなぐ。日本語教師になり学んだこと。

THE STORIES #052

寛容な気持ちが、異文化をつなぐ。日本語教師になり学んだこと。

日本語教師
さくら日本語学校

柳瀬 みほさん

「学生が日本語を話せるようになったときは、本当に嬉しいんです。最初は全然話せなかった初級クラスの学生が努力を続けて、数ヶ月後に上達した日本語で話しかけてくれる——この仕事を続けていてよかったなと心から思える瞬間です」

ベトナム、ホーチミン市。道路の片隅に腰掛け、屋台料理を食べながらほがらかに話すのは、柳瀬みほさんです。2016年に天理大学を卒業後、単身ベトナムに渡航し、現在は、ホーチミン市のさくら日本語学校で、日本語教師として勤務し、ベトナム人学生たちに日本語を教えています。

「さくら日本語学校は、1989年に設立され、今年創立30年を迎える歴史ある日本語学校です。会話の練習を中心に、直接法を用いて日本語で日本語を教えているのが特徴です。毎年学校を挙げて行う運動会・文化祭のほか、さまざまなイベントを企画する機会が多く、私も茶道部の指導を担当しています。学校の教育方針に惹かれ、ホーチミン市での就職を決めました。
天理大学在学中に国際参加プロジェクトでカンボジアやネパールを訪れていたことで、開発途上国での就職に抵抗はありませんでした」

日本語教師という職業を目指すようになったのは、どのようにきっかけだったのでしょうか。

「高校生のとき、オーストラリアに2週間ホームステイをする機会があったんです。そこで日本語教師として働く日本人女性に出会い、彼女の生き方に憧れて。
英語にも興味を持ったことから、天理大学の英米語専攻に進学して、語学の勉強に励みながら、日本語教員養成課程を履修し、念願の夢を叶えて教壇に立って、今に至ります。
私は今、主に『ゼロ初級』と呼ばれる、はじめて日本語を学習する学生を中心に教えています。語彙の限られた学生たちにうまく説明するのは思った以上に難しく、2回目の授業のあとは、くやしくて泣きました。

同時に、上達する学生たちを見るのは本当に嬉しい。私自身、もともと英語がすごく苦手だったので、学習のアドバイスに自分の経験を生かせていると思います。
学生の期待を裏切らないように、ベトナムの流行をチェックして話題に取り入れたりして工夫しています」

日常会話程度、と謙遜しながら、今では屋台での注文やタクシードライバーとの会話を流暢なベトナム語で行う柳瀬さん。同僚の日本人教師も暮らす、学校近くのアパートで一人暮らしをしているそうです。現地での生活にとまどうことなどはあるのでしょうか。

「健康の面では気をつけるべきことはあるのですが、基本的に生活で困ることはないですね。最近では、『今日は疲れたからフォー(ベトナムの米麺料理)でいいや』なんて思うようになりました。最初のうちはめずらしい体験だったはずの屋台料理が、いつの間にか日常の一部になったことに、気がついた瞬間。
自分でもハッとして笑ってしまいました。
ベトナムと日本の文化に違いを感じることは、たくさんあります。例えば、日本の感覚だと、遅刻が当たり前のベトナム文化はルーズに思えてしまいますが、渋滞で到着時間の見込めないベトナムではある意味、合理的でもあるんですよね。
とはいうものの、日系企業への就職を目標とする学生もいるので、『これはベトナムでは当たり前だけれど、日本ではやってはだめだよ』と客観的に伝える必要もある。
日本の文化を一方的に押し付けるのではなく、相手の文化を尊重しながら伝える姿勢を心がけています」

現在、異文化のなかでたくましく生活する柳瀬さんですが、その原点は、天理大学での学びにあるそうです。

「東南アジアやボランティア活動に興味を持った、国際参加プロジェクトからニューヨークでのインターンシップまで、本当に多くの貴重な国際交流体験をさせてもらいました。天理大学には頑張る学生を支援してくれるプログラムがたくさんあります。
周囲や学びの環境に恵まれ、周りがいつも協力してくれたからこそ、自分の夢を追いかけることができました」

そう懐かしそうに、語る柳瀬さん。さくら日本語学校での勤務後は、日本への帰国を考えているそうです。

「私は日本語を教え、学生を日本に送り出す立場にいますが、努力して日系企業に入社したものの、生の日本語の難しさや方言に挫折感を抱いてしまう学生もいます。
そういう現状も踏まえて、私は日本の国内で、日本にやってくる外国人のサポートができるような存在になりたいと考えています。
人間関係って、国籍や民族の違いにかかわらず、どこにいっても難しいときがあると思うんです。でも大切なのは、相手と自分との違いを認め、寛容な心で付き合っていくこと。それができるようになれば、誰でも、どんな国のどんな場所でもやっていける。私はベトナムでの生活で、それを実感しました。
後輩の皆さんも、少しでも興味があれば、海外への一歩を踏み出してみるのが良いと思います。その一歩だけで、世界は案外ぐっと広がるもの。
何かを決意することに遅いことはありません。思い立ったら、積極的に行動してみてください」

国際参加プロジェクト

天理大学の「建学の精神」に基づく「他者への献身」を、国際的な舞台で実践していく教育プロジェクトです。